【萌え話】ツンデレ妹がバレインタインチョコをキモオタ兄にプレゼント

キモいアニオタの兄貴に

「臭いから部屋出るな」
 

と妹の私が言うと

キモいアニキは
この世の終わりみたいな
悲しそうな顔をしている

こらそんな顔する前に
何とか言い返せ。

そんな捨てられた子犬みたいな目で
こっち見るな、キモイ

 キッとにらんでやると、
アニオタアニキはしょんぼりと肩を落とすと、
小さく背中を丸めて部屋に戻っていった。

 ふん、これだからヲタは嫌いだ

妹に臭いって言われたぐらいで落ち込むな、
このボケ。

アニキだったら、こう…なんというか、
ガツンって言い返せないもんだか

 これもみんな、あの変なエロゲームが悪い

そう、エロゲームのせいだ。

あたしのせいじゃない

 最近、アニキが部屋にこもって
エロゲームをPCでやっているのをあたしは知っている

その…なんというか
かわいいロリっぽい少女が出てきて、
アンアンとかいう奴だ

 あんなのばかりやっているから、
現実の女に目を向けられないんだ。

ゲームの中じゃ、そりゃアニキはモテモテだろうよ。

あー、おめでたいね。
現実逃避しすぎ

いいかげんにさらせ、コラ

しょせんリアルじゃアニキは
ただのキモいヲタだっての

あたしゃ妹としてはずかしいよ。

あんなエロゲームやっていないで、
もっと現実の女に目を向けろっていうんだ。

 パンピーのアニキだったらさ、妹に対して

「お、最近おまえもきれいになったな」

とか、

「彼氏できたのか?」

とか言うもんだろ、
フツー。あたしが髪をセットしたら、

「似合っているよ」

とか

「見違えたよ」

とか言って妹を褒めろっての

それが美人の妹をもったアニキの義務だろ、義務。

アニキってのは、こう、カッコよくて、
強くて、頭が良くて、やさしくなくちゃダメ。

これ絶対。

その点、うちのアニキときたらキモオタ(怒)。

 まあ、やさしくはある。

気が弱いだけなんだろうが、
まあ、あたしにはやさしい。

うん。それだけは認めてやろう。

あたしは、と~~~ても寛大だから。
それに嘘はいけない。

 だけど、他の点はダメダメだ。

そりゃもう、地の底に落ちるくらいダメ

 さっきのもアニキが悪い。

最悪のタイミングって奴だ。

間が悪い奴ってのはいるが、
アニキはそれだ。

プレゼントという奴は、
もらえないと思っていたところにもらえると、
とってもうれしいものだ。

 たとえば、それが義理チョコだろうが、
そういうことになっている。うん。そうに違いない。

 せっかく用意してやっているところに、
いきなりやってくるアニキが悪い

だから、あんなこと言われても仕方ないんだ。

あたしは悪くない

 だいたい、あたしはチョコひとつ
もらえそうもないアニキのために、
バレンタインにチョコをあげようっていう何とも
アニキ孝行な妹じゃないか。

こんないい妹は、他にはいないっての。

そこんとこ、アニキは少しは
自覚して欲しいってもんだ。

とにかく、こいつをさっさと渡しておこう。

 まださっきのことを気にして落ち込んでいられたら、
うっとうしくてしかたないし

さっきはちょっと言い過ぎたかもしれない。

でも、これを渡せば、機嫌をなおすだろう。
何しろアニキは単純だから。

 きっと、びっくりするだろう。

アニキは小心者だから顔を真っ赤にして、
ガチガチになって受け取るに決まっている。

うん、それを想像するとなんだか気分がいい。

 それに、このチョコは、
けっこう高かったんだから、
それくらいの反応みせてくれないと割に合わないし

アッコが、「義理にお金かけすぎ」
って言っていたけど、まあアニキとは長い付き合いなんだから、
他の義理より少しはお金をかけないと
妹としての立場がない。それだけだ。

それだけだっての。

って、あたしは誰に言っているのだ?

 「アニキ~、ちょっと入るよ」

 チョコを背中に隠して、アニキの部屋のドアをあけると、

『あぁぁ~~ん! あぁぁ~~ん! い、いくぅ~~~!!!』

「あ」

なぜか脱いでいる中学生ぐらいのアニメの少女が
映っているPCの前で、
どーいうわけかズボンを下ろしている理由は聞かないよ

、アニキ

 だから、とっとと死にやがれ、このボケ!!

「死ねや、くそアニキ!!」

 まだ呆然として、その、なんとうか、
あの…ナニなナニを握っているアニキの顔に、
右前蹴りをドリルのようにねじ込んでやった。

ガマガエルか豚みたいな声を上げて
椅子ごとブッ飛ぶアニキの姿に、
やはり一週間でマスターできる
空手通信講座をやっていて良かったと、
しみじみ思う。

 このザ・カラテマスターの必殺悶絶蹴りで、
アニキは気絶したのかピクリとも動かない

 む…ちょっとやりすぎたか?

 だらしなく大股広げているところをみると、
ホントに気ぜt……あっ。

 うわ、いや。ちょっと……えぇっ…そんな。

ナニを出してナニしていたところを
蹴り食らわせて気絶させたわけで、
それで大股開いていればナニがナニしてナニな状態になっているわけで

すまん、あたしも自分で何を言っているのか、わからん

 とにかく、ナニが出っ放しなんだ、文句あるか!?

 これでも、あたしゃ花も恥らう乙女なわけで、
こういうときはそっと目をそらしてやるのが礼儀なわけで、
うわ何だかビクビクしている!って、ちがーうっ!

 落ち着け、あたし。そ

う、あたしはクールな女。ふっ、氷の女帝とお呼び!

 ごめんなさい。あたしは、混乱しております。

 何しろ、ナニを見たのは初めてなわけで。

いや、それは小さい頃にアニキと一緒に
お風呂にはいったこともありますよ。あのときは

「お兄ちゃん、これなーに?」

「これはチンチンだぞ」

「いいなぁ。あたしも欲しいー!」

などと子供の時はいうこともあったよ。

そのあと、アニキのナニを思いっきり引っ張って、
大変なことになったけど、
それも良い思い出…じゃない!

 と、とにかく! 子供の頃のナニをのぞけば、
こうしてナニを見るのは初めてなわけで、
花も恥らう乙女であるあたしが
混乱するのも無理はない。そうでしょ?

 そうなんだって!

 あたしの記憶にあるナニは、
なんというかこう……ポークビッツ? そんなものだった。

 けど、アニキの股間にあるのは、
はっきりいってキモイ。マジでキモ!

 あそこは亀の頭って書いて『亀頭』っていうらしいけど、
確かに亀に見えないこともない。

だけど、ただの亀というより象亀の頭? 
しかも、怒っている象亀。青筋立てまくり。

 アッコは「かわいいもの」とか言っていたけど、
どこがじゃ! 

あんの嘘つきめ。かわいいどころか、
これはエイリアン! マジで、エイリアン!!

  あたしは今、未知との遭遇!

 エイリアンと初めて遭遇した地球人(あたし)のとるべき選択肢は、

「1、捕獲。2、観測。3、駆除。4、撤退」

 1と2は問題外。って、おいこら、
なんだか悔しそうな気配がしたのは、
あたしの気のせいか?

 と、とにかく! 

1と2は問題外で、3は魅力的な選択肢だけど、却下。

さすがに駆除したらシャレにならない。

 だから、あたしの選択肢は4の撤退。

アニキが気絶しているうちに、さっさと撤退する。

これ最高。

 あたしは何も見なかった。アニキに蹴りをいれ、
そのまま部屋から出て行った。何にも見ていない。

そういうこと。

 そして、これからアニキは無視してやる。
死ぬまであたしに無視されて苦しめ! 

謝ってきても許してやらないから。

絶対に許さない。

土下座でもすれば三日ぐらいで許してやってもいいけど。

 そうと決まれば、早く部屋を出なくちゃ。

「うっ。ううぅ~~ん」

 ……どうして、アニキはこうも間が悪いんだ。
 あたしは部屋を出る機会を失った。

 やばい。何が、やばいかというと、自分でも顔が熱くなっているのがわかる。ホントに火を噴きそう
なくらい顔が熱い。これは確実に、顔真っ赤だ。
 う~む。我ながら、純な女の子しているなぁと感心する。あたしが男だったら、思わず「愛い奴じゃ」
と帯を引っ張って、クルクルさせちゃうぞ、いやホント。そんで、あたしは「あ~れ~」とか言っちゃうわ
けだ。
「…うぅ~ん。……イ、イテテテッ」
 っと、アニキが本格的に目を覚ましてきたな。
 しかたないから、顔は怒って真っ赤になったことにする。うむ、あたしって頭が良い。こう、目元をキュッ
と吊り上げれば完璧! ついでに胸の前で腕なんて組んで、さらに怒りをアピール。っと、義理(ここ
んとこ重要)チョコは、足元にいったん待機。
 よし。怒り狂う妹大魔神。ここに見参! さあ、くそアニキ、いつでも目覚めれ。
「イテテテ……え~と、何があったんだっけ?」
 おい、早くこっちに気づけ。こんなポーズで待つのも疲れるんだ。
「えっと。確か……ストライプ?」
 あたし→( ゚д゚)ポカーン
 ストライプ?

 ストライプ[stripe]縞。縞模様(最新早引きカタカナ語辞典)

 縞模様。たとえば、今あたしがはいているショーt。
 ……おい、あたし。クールにやろうぜ、クールに。深呼吸1、2、3。ほら、あたしはクール。そして、状
況分析。
 あたしが今はいているのはスカート。丈は膝上10センチ。これぞ若さの特権! おばはん、悔しがれ。
おやじどもは減るから見るな!
 そんで、そのスカートの中身はストライプ。
 よし、状況分析完了。

「こんの腐れ外道がぁ~~~!!!」

「ごめんなさい。ごめんなさい。生きていてごめんなさい。生まれてきてごめんなさい」
「タコ、アホ、根暗、蛆虫、包茎、インポ、短小、死んじまえ」
 下半身丸出しで土下座するアニキを見下ろす、あたし。「パンが食べられないのなら、お菓子を食べ
ればいいのよ」ってぐらい、超傲慢。こう髪を縦ロールにすれば、完璧?
「あの、いくらなんでも短小はないと思うんだ。これでも平均サイズなわけで……」
 おい、なぜそこだけ反論する? さては気にしているのか、アニキ?
「誰が口答えを許した!」
 右足を一閃。アニキのテンプルにクリティカルヒット。
「貴様に許されたのは、慈悲を請う事と『イエス・サー!』だけだ! わかったか!?」
「い、いえす・さあぁ……」
 よろしい。なんだか断末魔の痙攣みたいにピクピクしているが、気にしない。目も、半分あっち側を
見ているようだが、まあ良い経験だろう。人は何事も経験が大事。
 しかし、あたしにとって今、それよりも重要なのが、あのエイリアンが平均サイズということだ!
 あのグロい物体が、平均サイズ? だって、あれはナニをナニして、女の子のナニにナニするんで
しょ? あんなの入るわけ? 絶対に無理。ママ、あたしを助けて!
 正直に言いましょう。あたしは、アニキのナニは絶対に巨根とかいう奴だと思いました。ええ、何の
取り柄もないアニキに人並み以上のナニが。ううぅ、妹としてうれしいよ(感涙)。人並み未満(以下で
はない)のアニキに、人並み以上のものがあったの!
 ところが、あれが平均……。まさに生命の神秘だ。
 と、そんなことに感動(?)している場合じゃないわけで。こんなところを親に見られたら、あたしの品位
の株も大暴落しちゃう。そりゃ、世界大恐慌も真っ青なくらい。

 早くこの場から退散するにはどうすればいいか?
 アニキをののしる→アニキ(´・ω・`)ショボーン→あたし「ばかアニキ、死ね!」と立ち去る
 よし、シミュレート完璧。あとは実行すべし!
「なに、休日の朝っぱらから、そんな粗末なものおったててんの! バカじゃない!? それとも露出狂!?
それなら家族の縁を切ってから、外でやってよね! でも、そんな小さくちゃ、見せても誰にもわから
ないだろうね( ´,_ゝ`)プッ」
「そ、そんなにいうことないだろ!!」
 あ、怒った(汗)。うわ、マジで逆切れ? ちょ、ちょっと。アニキが怒るのなんて、子供のとき以来?
あちゃ、まさかナニのサイズは禁句だったわけ?
「う…なに、逆切れしてんのよ! アニキが悪いんでしょ! 朝から変なの見せて!」
「いきなり部屋に入ってきて、勝手に見たおまえが悪いんだろ!?」
「なによ! あたしが見たのが悪いっての!? そんなの見たくて見たわけじゃないでしょ!」
 うわ、マジむかつく。売り言葉に買い言葉なんてどーでもいい。アニキの分際で生意気な!
「それなら見るなよ!」
「それなら見せるな!」
「おまえだけ見て卑怯だぞ!」
「なにが卑怯だってのよ!」

「お れ の を 見 た ん だ か ら、 お ま え の も 見 さ せ ろ ! !」

……アニキ、あんたは正気ですか?

 わっはっはっはっ! 今の台詞、あたしの中でめちゃヒットですよ、アニキ。
 おれのを見たんだから、おまえのも見させろ? いまどき消防でも言わないぞ、そんな台詞。いや、
まいったね。妹を笑わせて殺す気ですか、あんた。おめでたいね。
 だいたい、自分で何を言っているかわかっておりますか、アニキ?
 このあたしが「そんなに言うなら見せてあげる」とでも言うと思ったのかい? あんた、エロゲのやり
すぎ。現実ってものを知らなさすぎ。二次元と三次元を勘違いしちゃダメだって。あー腹いてぇ。
 エロゲばっかりやっているので、危ない奴とは思っていたけど、ここまでとは。母ちゃん、黄色い救
急車手配した方がいいですって。いや、マジで。
「アニキ、それ本気で言ってるの?」
 あんまりバカバカしいんで、冷めた目をして逆に言ってやったら、アニキもオロオロしやがる。ったく、
情けないったらありゃしない。ここで「本気だぞ」とかガツンって言ってみろ。そうすりゃ、かえって惚れ
直すのにさ。
 って、直すってなんだ、直すって。もともとあたしはアニキに惚れてるわけないだろ。絶対にない!
ぜぇ~ったいにない! 言い間違えただけ! そういうこと。
「あ…ごめん。つい、カッとなっちゃって。その、見たいなんて、うそ」
 はぁ~~~。妹に言い訳するアニキって、情けないぞ。
「ホントにゴメン。ホントに、そんなの見たくないから」
 ちょっと待て。
 おい、こらアニキ。「そんなの」ってのは、なんだ? 「そんなの」ってのは? あんた、いい度胸して
いるね。

「ほぉ~~~。へぇ~~。こぉぉぉんな、かわいい妹つかまえて、『そんなの』?」
「いや、そ、それは言葉のあやってもので。けっして たいしたことないって意味じゃ」
「……アニキ。今、あたしの胸みたろ?」
「いえ! 見てませんです!」
「たいしたことない、思ったろ?」
「そんなことありません!」
「小さい、思ったろ?」
「思っておりません!」
「ペチャパイ、思ったろ?」
「ない、ない!」
「……今、『ない』って言ったな。『ない』って言ったな。二度も言ったな!(怒)」
 アニキ。今、あたしの背中に何かが降臨したよ。たぶん、悪魔とか鬼とか大魔王って奴がね。
「あ、あははは……。その笑顔、こわいんですけど」
 そりゃ、あたしだって、普通の娘より多少は小さい自覚あるよ。だけどなぁ、だけどなぁ。寄せてあげれ
ばギリギリBカップになるんだぞ。パッドも入れれば、どかーんとCかDにだってなれるんだぁ! それを
言うに事欠いて、小さい? ペチャパイ? ない乳!?
「アニキ、遺言は今のうちに言っておいてね♡」

 ――10分経過。

 ふぅ。さわやかな朝だ。運動後の心地よい疲労感が何ともいえない。そして、足元にはボロ雑巾のよ
うなアニキ。BGMには、「シクシク」というアニキの泣き声。これ以上、すばらしい朝があるであろうか。
 けど、ちょっとやりすぎたかな? もし、アニキをボコりまくる世界大会があったら、ダントツで金メダ
ルを獲得できちゃうくらい、ボコっちゃったからね。
 う~ん。別にアニキが心配ってわけじゃないけど、やさしい妹としては手当てなんぞしてやったりした
方が良いのかもしれないような気がしないわけでもないと思うのではないかと。
 うつ伏せで寝ている兄貴を足でひっくり返してやると、こいつ仰向けになっても両手で顔を隠して泣い
てやがる。はぁぁ~。おまえは処女を奪われた女の子か。

 って、あ……………。
 すっかり忘れていたけど、アニキは下半身おろしたままなわけで、それが仰向けになれば、ナニが
フルオープンこんにちわな状態に。うわぁマジですか、おおぉ。
 で、で、でも! さっきと全然違うじゃん、これ! さっきのは象亀でエイリアンだったのに、今はただ
のカメ? それもやる気のないだらけたカメ。そんな感じ。これなら、アッコのいうように、ちょっとかわ
いいかも…って、ちがーうっ!!
 おい、あたし。おまえは何を言っているのだ!?
 クールになれ、クールになれ、あたしってクール・ビューティ?
 と、ともかく、さっきは勃起?とかいう状態で、ガチガチになってたわけで(くそ、顔が熱いぞ)、今のが
標準状態のはず。ああ、習ってよかった保健体育。えっと、標準状態ではナニは、フニャフニャになって
いるはずで。うん、見た目もそんな感じ。で、でも、その、ホントにフニャフニャなのかな?
 …………!!
 今、あたしは何をしようとした、おいっ! さ、さ、さ、触ろうなんてしてないぞ。裁判官! 本当なんで
す、触ろうなんてしてません! これは不慮の事故だ。絶対に事故だ。あたしに過失はない! 陪審
員はみんな、あたしの無実を支持してくれるに決まっている。だから、当然無罪確定。ありがとー、み
んな! あたしゃ勝訴と書いた半紙を持って裁判所を駆け出しちゃうよ。
 現実逃避している場合か、あたし! 心臓がバクバクいっているのは、アニキをボコったからだ。そ
うなの! だ、誰だ!? 大きな音を立てて唾を飲み込んだ奴!? って、あたしかぁー!!
「あ…アニキ……?」
 誰だあたしの声を使ってしゃべっている奴!? こんなのあたしじゃない、あたしじゃない!

「ホントに、あたしの見たいの? 見たくないの?」

 ごめんなさい、母ちゃん。今度はあたしが正気じゃありません(涙)

 ぐはぁ~~!! あたしは何を言っているんだ!?
 ち、違う! 違うんだぁ。これは、電波があたしに命令したんだ。そうに決まっている。そうに違いない!
はるか大宇宙のかなたM88星雲からあたしを操ろうとする電波のせいなんだYO!
 ふっはっはっは。こうなりゃ、アニキも道連れだ。
 喰らえ、毒電波! ピピピピ~ッ! ピピピピ~ッ! 記憶を失いやがれ。ピピピピ~ッ!
 効果なし(血涙)。アニキはどうやら電波の届かない場所にいるか電源が切られているみたいです。
 だいたい、あたしは何を見せるっていうんですか?
 まあ、その、女に飢えた男が見たがる場所っていったら、やっぱり乳?
 か、神様、許してください。乳だけは勘弁してください。あたし、さっき嘘つきました。あたしの乳は、寄
せてあげてもBに届きません。嘘言ってゴメンなさい。だから、乳だけは勘弁。
 そ、そうなると、オマ○コですか? うわ、あたしってモロだね。やばいね。うわぁ、清純派でとおって
きたあたしのイメージが、もうボロボロと……。やっぱり、ここはかわいく「割れ目♡」にしよう♪
 今までアニキのナニをボロクソ言ってた。けど、あれがエイリアンなら「割れ目♡」は、深海の
怪物? 船を襲う巨大タコとかイカの親戚みたいな。もう、エイハブ船長助けて~!!ってなものだ。
 あたしが乙女の知的好奇心から、自分の「割れ目♡」を鏡で見たときは、マジでビビった。だって
深海の怪物だよ? なんちゅーか、内臓がモロ見えって感じで、自分の股間にこんなグロイものがつ
いていたのかって超ショック。この前ネットでグロ画像見たとき、思わず「勝った」とか思ったもん。とて
もじゃないけど、こんなの見せられませんって。

 そうなると、残るはお尻?
 うむ、それならいいかもしんない。自慢じゃないけど、あたしのヒップは、こうキュッとしまっていて形
もいいらしい。むふふ、毎日アニキを蹴り倒していたのが、お尻を引き締める良い運動になっていたと
は。それにそれに、
「……見たい」
 ……! アニキ、なんば言おっとね!?(あたしはどこの人間だ?)
 あ、あた、あた、あたしだって、その、心の準備というか、やさしくしてねというか、じゃなくて!
「――って言ったら、ど…どうする?」
 ……って、いきなり弱気になってますよ、こいつ。マジで、殺して良いですか?
 しかし、さっきはマジでビビりました。一瞬、時が止まりましたよ、確実に。
 はッ!? まさか、アニキは――

 ス タ ン ド 使 い !

 しかも、ザ・ワールド!? いつの間にか、ナイフを投げられているとか、ロードローラーで「ウリィ~!」
とか言っちゃうわけですか? いきなり「俺はアニキをやめるぞ! ショジョーッ!!」とか叫んじゃうわ
けですか? もしくは壁に張り付いて「貧弱貧弱……

「あたしの乳は貧弱じゃねーッ!!」

 あたしのオラオラを受けたアニキは、面白いようにブッ飛んだ。

「あんたら、なにやってんの」
 YOU WINの文字を背負ってポージングを決めていたとこに、母ちゃんがきた。
 うちの母ちゃんは、見た目は直立歩行するカバだね。ただ、カバは穏やかな目をしてるけど、うちの母
ちゃんの目は、たとえるなら1ヶ月間絶食させた後で目の前に「あぁ~ん。あたしを食べてぇ~ん」とのた
まう丸々太った子豚を目の前にした狼の目。マジ、怖いです。「わしゃ、これまで10人の人間を殺っちょ
るよ」と言おうものなら、「嘘つけ! その倍は殺しているだろ!」と突っ込みいれたくなる。いや、マジで。
「兄妹仲良いのはいいけど、早く朝飯くいな」
 ズタボロになったアニキを見てもこの台詞。しびれるぜ、母ちゃん。

 今日の朝食は、納豆に生卵、のり、焼き魚。ああ、これぞ日本の朝食。
 だけど、気分は最悪。
 なぜかって、そりゃあたしの目の前に座っているアニキが原因に決まっているだろ。
 ああー、うざったいうざったいうざったい!!
 あんた、さっきからあたしと視線が合うたび、顔を背けるのやめてくれない? その兎のようなビクビク
した態度が、ムチャいらつく。そんなに人の顔見るのがイヤなら、最初ッから、こっち見るなよ、ボケ。
 しかも、その真っ赤な顔はなんじゃい? さっきのがまだ忘れられないのかよ。これだから、エロゲに
はまって現実の女に免疫がないヲタは嫌だ。こいつ、絶対に童貞だな。プッ(w
 ほら、またこっち見て顔を赤くしてやがる。
 エロゲやってて女に免疫ないんですか? それとも免疫がないからエロゲに走るわけ?(ゲラ
「あんたら、さっきからふたりして見詰め合って、顔赤くしてるんよ?」
 ! あたしもかぁー!!
「ご、誤解だ、母ちゃん。あ、あたしのは、ほら……そう、鳥インフルエンザ!」
 アニキも何とか言えっての! って、アニキ。あんた、なんで顔を真っ赤にしてうつむいてる? 普通
逆だろ。あんたは、彼氏の親にふたりの仲を冷やかされた女の子ですか?
「鳥インフルエンザならいいけど」

 いいんですか!?
「生卵がいけなかったかね。焼酎飲んで、殺菌するかい?」
 母ちゃん。休日の朝っぱらから、未成年の娘に飲酒を勧めるのは、どーかと思いますよ、あたし。
 くそぉ~! この怒りをどこに向けるべきか! もちろん、アニキあるのみ!
 「死ね~死ね~死ね~」と呪いを込めてにらみつけながら、焼き魚にザクザクと箸を突き立ててやる。
「……あんた、焼き魚に恨みでもあるんか? 親の仇か?」
「実は、3日前に母ちゃんが焼き魚に殺されたの」
「ほう。それなら得物で刺し殺すんじゃなく、ガブリといきな。仇をしとめるのは得物より素手が感触が
直に伝わっていいよ」
 などと、アットホームな母娘の会話。うちはいつもこんなものだ。その間に、ひとり先に食べ終えたア
ニキが席を立つ。
「あら、もういいのかい? 相変わらず小食だね。男なら、もっと食べな」
 激しく同意。アニキは男のくせに、なんでこう女々しいんだろうかね。こんなんだから、隣のババァから
『お兄ちゃんと妹さんって、性別間違えたんじゃないのかしら。オホホホホ』なんて言われるんだ。くそ、
思い出したらムカついてきた。また、三河屋のにーちゃんとイチャついているとこ盗撮して、バラまいて
やるか。
「まあ、朝から丼メシ食べる妹もなんだけど」
 ほっとけ、ボケ。
「ああ、それとお兄ちゃん。これ、母ちゃんからのバレンタイン」
 …………む。なんか、ムカつく。アニキがヘラヘラした愛想笑いで受け取るのも、すっげームカつく。
 ガバガバガバとメシをかっ込んでいると、アニキがもの欲しそうな顔でこっち見て嫌がった。キモッ!
 あんたは、妹に何を期待しているんですか? マジでキモいから、そんな目で見ないでくれ。あんた
に見られていると、メシがまずくなる。だから、こっち見るなってのエロゲヲタが。あんたは、二次元の
彼女からチョコもらえばいいだろうが。
 上品かつ優雅に、中指だけ立てた右拳を向け、アニキに一言。

「ヒッキーは、部屋に引きこもってろ、ファッキュー!」
 アニキは打ちひしがれた顔して、部屋に逃げていきやがった。わっはっはっ!
「……あんた、お兄ちゃんにまだチョコ渡してなかったのかい?」
 人がせっかく勝利感に浸っているのに水を指す母ちゃんだな。なんでそういう結論になるんだか。確
かに、チョコは渡してないよ。それとこれとどういう関係があるっていうんだ。
「『いやぁ~! ダメ~! ダメェ~!!』」
 な、なんだ母ちゃん!? いきなり気色の悪い裏声上げて!?
 まさか、ついにボケたか? それとも電波? やっぱりうちは電波に侵略されているのか!?
 だ、だれか渦巻きマークを描いて家に貼れ! 白装束はどこに売っているの!?
「『母ちゃん、ダメぇ~! お兄ちゃんには、あたしが先にチョコあげるのぉ~!!』」
 そりゃ、あたしのマネかいっ!!
「あれは8年前だっけ。あのときは、おまえがワンワン泣いて、大変だったよ」
 ぐはぁ~~!! やめてくれぇ、母ちゃん。それは子供の頃の話です!
「他にも、子供部屋をふたつに分けるときも『兄ちゃんと一緒がいい!』って駄々こねて、『兄ちゃん、あ
たしが嫌いなの!?』って、お兄ちゃんを困らせたこともあったっけ」
 うぎゃぁ~~!! 子供の頃の恥部をさらすのはやめてくれぇ~! 確かに、あたしはお兄ちゃんッ娘
でした。否定しませんよ。でもね、でもね。人には気の迷いというか、過ちというか、認めたくないものが
あるんです。できれば、そんな記憶は封印だけじゃなく、異次元の彼方に放逐し、アカシックレコードか
らも抹消したいくらいの恥部。
 証拠隠滅せねば! まずは、母ちゃんの頭を強打し、記憶を削除……

 ――ゾクッ!

 さ、殺気が。
 気づけば、母ちゃんが座っている椅子から少し腰を浮かし、臨戦態勢!? しかも右手に持った湯飲み
には熱いお茶。

 あたしが飛び掛れば、まずお茶を顔にぶっかける。顔に浴びれば視界をふさがれ、かわしたとして
も体勢が崩れれば、次に待つ湯飲みを持った右の攻撃は回避不能。
 さ、さすが町内で最強の主婦と呼ばれることはある。
 バーゲンセールやタイムサービスで鍛えた主婦を侮ることなかれ。商品棚の間を駆け抜けるために
つちかったフットワークは軽量級ボクサー並。バーゲンの棚に群がる敵を蹴散らすために身に着けた
突進力は猛牛さながら。典型的なパワーファイターのようでいて、限定2パックの卵を買うため、小物
や化粧で別人になりすますという小技まで見につけている、まさにトータルファイター!!
 某グラップルな最強生物とタイマンしても、良い勝負できるぞ。いや、マジで。
 あたしが観念したのがわかった母ちゃんは、そりゃもうノリノリで暴露を続けております。
 やめてよ、母ちゃん!(血涙)

 燃え尽きた。マジで燃え尽きた。
 あれから10分間にわたって、暴露され続けたあたしの恥部。ああ、思い出すだけで羞恥に身が焼か
れそうです。何も、「大きくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになる発言」や「チンチン引っ張り事件」、「お
兄ちゃんをお見舞いに来た女の子を木刀で襲撃事件」まで話さなくていいのに。グスン(涙)
 もう、あたしゃ生きていけません。こんな女は生きていちゃいけないんです。
「それはともかくとして、お兄ちゃんにチョコあげなさいよぉ。あれでも、あんたのチョコを楽しみにして
いるんだからさ」
「……はい」
 もう逆らう気力もありませんよ。
 ……あれ? そういえば、あたしはチョコをどこにやったっけ? 確か、今朝チョコを持って――

 あたしはアニキの部屋にチョコを置き忘れたことを思い出した。

 まずいまずいまずいまずい!
 そりゃもうあんた、青汁なんて目じゃないっすよ、マジで。このまずさは、致命傷! もはや毒ですよ、
毒。
 なにがまずいかというと、もちろんアニキの部屋にチョコを置き忘れたこと。うわぁ~、なんであたしは
アニキの部屋にチョコを置き忘れたの? Why? どうして? とにかく、まずいったら、まずい!
 あれがアニキに見つかったら……

『ありがとな。おまえのチョコ、うまかったぜ』
『うん。そういってくれると、あたしもうれしいな』
『あれ、高かったんだろ?』
『うん。でもでも、お兄ちゃんにあげるチョコだから……』
『うれしいぜ。――だけどな。俺はチョコよりも欲しいものがあるんだ』
『あ、お兄ちゃん。何するの? っあ』
『おまえの唇。チョコより甘いな……』
『お兄ちゃん……』

 …………にへら。
 ……!? なななななっなんだ今の妄想は!? あ、あたしはそんなことちーとも思ってないぞ! やっぱり
電波? 毒電波があたしを狙っているのか!? これは国家の陰謀? それとも異星人の地球侵略計画!?
 そういえば向かいの田中さん家のおじーちゃんって、グレイ星人に、くりそつ! やっぱり、あれは地球
人じゃなかったんだ。大変だよ、NASAに連絡しなくちゃ。そんで翌日のワイドショーは総なめね。もち、
特番のタイトルは「グレイ星人捕獲される!?」。そして、第1発見者のあたしは東海林さんにインタヴュー
されちゃうわけだ。目に黒線いれられて「やっぱりそうじゃないかと思っていたんですよ」って。これで、あ
たしも一躍時の人? まいっちゃうね、こりゃ(w

 しかし、今のアニキは何だ!? 美形になっていたぞ、美形に! たとえるなら当社比200%くらい。しか
も、目の中に星がキラキラしていて、ギターなんぞ背負っていました。あんた、一昔前の少女漫画の男
の子ですか? あたしの妄想の中でも、痛いヤツだな、アニキ。もう痛すぎます。死んだ方がいいよ、
マジで。そこはかとなく冤罪っぽいけど、気にしません。なぜなら、あたしが法律。アニキの生殺与奪の
権限はあたしが握っているので、無問題。
 そんなことより、今はいかにしてアニキの部屋からチョコを奪還するかです。
 チョコ奪還計画その1「火事場泥棒作戦」。放火して火事場の騒ぎにまぎれてチョコを奪還する、い
たってシンプルな作戦。出火の原因を聞かれたら、「あたしのナイスバディが燃えたのよぉ~!」と言
い張る。うん、まさに完璧な言い訳だ。
 ……やっぱ却下。アニキの部屋はあたしの部屋の隣だ。アニキの部屋が全焼する分にはかまわな
いが、あたしの部屋が焼けるのは困る。それに消火の際に消防団員に、アニキの部屋にうずたかく積
み上げられた怪しい物体を見られたら、あたしら家族は破滅です。もう外に出られませんって。これ、
致命的。いや、マジで。シャレになっていません。
 チョコ奪還計画その2「地震が起きたよ、そら逃げろ作戦」。地震を起こして、アニキが部屋を飛び出し
ている間に、チョコを奪還する大胆な作戦。
 ……計画は頓挫。母ちゃんに地震を起こしたいから、しこを踏んでくれと頼んだら、パワーボム食らっ
た。きれいなお花畑と、3年前に死んだばあちゃんが見えたよ。でも、ばあちゃん、冷たくなったな。あた
しが駆け寄ろうとしたら、川向こうから「来るな、来るな」ってあたしを追い返そうとしやがった。うるうる、
たった3年で孫への愛情を忘れたの!? やっぱり身体が冷たくなると心も冷たくなるのですか?
 あたしは悲しいよ。

「ちょっと入っていい?」
 部屋のドアがノックされたので誰かと思ったら、この弱気ムンムンな声はアニキだな。

 あたしがせっかくチョコ奪還計画その321「ア○カイダがなぜか我が家でテロ行為を作戦」を検討中だっ
ていうのに、邪魔くさいやつだ。ホント、間の悪いヤツだな、あんた。あたしゃ、今、どうやってビンラディン
氏と連絡取るかという難題に頭を悩ましているんっだっちゅーの。
「よくない。帰れ」
 おー、あたしって超残酷。
「……そっか。ごめん、いそがしかった? また来るよ」
 ぐわぁ~! あんたは、なぜそこで引く? 男だろ、あんた!? その股間のブツは飾りですか? 男な
ら、「入るぜ」といきなりドアを開けて「キャ! 着替え中に入ってくるな、バカァ~」とあたしが怒る…って
何の話ですか、あたし!?
「よ…よくないけど、あたしは寛大だから、特別に許す。入って良いぞ、アニキ」
「……うん」
 おい、アニキ。あんたは妹の部屋に入るんじゃないのか? まるで猛獣の檻にでも入るように、恐る
恐るドアを開けるのは、どーいうこった? よぉ~~く、わかった。ホントによぉ~~~~く、わかった。
あんたがあたしをどう思っているのか。
 ふっふっふ、それならその期待に応えてやらなくちゃな。
 アニキ、あたしを妹と思うなよ。今のあたしは、猛獣! たとえるなら雌豹。今のあたしに触れると、怪
我だけじゃすまないわよ。うふふふふ……
「あの…ありがとうな」
「なにがよ?(グルルルゥッ)」
「その、これ……」
 ん? どこかで見覚えのある、箱。
 って、そりゃあたしが高島屋のバレンタインキャンペーンのお店で、2650円(税込み)で買ったチョコ
ではありませんかっ!

 あたしは、田中さん家のグレイ星人の力でアニキの記憶が消せないものか、本気で検討をはじめた。

「しょ、しょれは、ぬぁんぢぇしょーかぁ?(翻訳そ、それは、なんでしょーか?)」
 あ、あたし、声裏返りまくり。というか、これ何語? アタシ、ニホンジン。ニホンゴシカ、ワカラナイネ。
なんて、夜になると繁華街に立っているネーチャンの真似してどないするっての。
 ええい、気つけに自分の顔にパンチを一発。
「ぷぎゃっ!」
 くっ、良いパンチしてるじゃねーか、あたし。夕日に照らされた川原で仰向けになって寝たい気分だぜ。
 って、おいアニキ。その、鉄格子付きの病院から、ちょっと遊びに抜け出したついでに包丁を購入し、
見ず知らずの人の家にあがりこむ、おちゃめな人を見るような目つきで見るんじゃないっての! あたし
は、キ(ピー)イかっての!? 
 それと、ジリジリ後ろに下がっているのは気のせいか? その「目をはずしたら、殺られる!」って顔し
て後ずさるのやめれって。あたしは熊か何かか!? アッコにさえ熊殺しと言われることはあっても、熊と
呼ばれたことはないんだからな。
「お、おまえ。鼻血が……」
 ん? そういや、鼻の下に生暖かいドロ~とした感触が。ちょっと殴りすぎたか。まあ、青鼻汁じゃなけ
れば無問題。純情可憐な乙女であるところのあたしが、青っ鼻をダラ~と垂らしていたら、さすがにマズ
イっしょ。
 しかし、アニキも情けないね。この程度の鼻血で顔を青くするなよ。情けない。あなたはオコチャマで
すか? 転んで膝をすりむいたら、ママに言うんでちゅよぉ~(ゲラ
 だいたいこの程度の血がどうしたっての? あんたねぇ、女は毎月大変なんですよ。そりゃもう、血が
ドバーッ!と出るんですよ、ドバーッ!と。あんときばかりは、女やめたいです。それが毎月ですよ、毎
月。どんだけ苦しいかわかるかい? 言っとくけどね、もしわかるなんて口に出してみな。これから毎月
腹をボコって消化器系にダメージ与え、下血させるよ。いや、マジで。
 鼻血を親指でグイッとぬぐって、ニッコリと微笑んでやる。

「それは、なんでしょーか?」
 って、今アニキ、「ヒッ!」って言ったろ、「ヒッ!」って言ったろ!!
「あ…その…こ、このチョコ、おまえのだろ。だから、お礼に……」
「ああ、そのチョコね」
 フンッと鼻を鳴らして、冷めた視線。おお、あたしって悪い女。
「それって、あたしの彼氏に上げるものなのよねぇ。
よかった。どこに忘れちゃったか、探してたの。ありがとう、お兄ちゃん」
「え? えっ・・・えっ?」
 ふっはっはっはっ! パニくってる、パニくってる。何しろ、もう包装紙やぶっちゃてるもんね~。
「だいたい、あたしがさ、アニキになんかのために、チョコ買うと思ったわけ? ちょっとうぬぼれてない?」
「でも、このメモカードに『アニキへ』って書いてあるけど」
 な、なんですとぉー!!?
 そういえば、店員さんが『メモカードにお名前書きますけど~』とか言われて、「んじゃ、『アニキへ』」っ
てお願いしたような気がしないでもないぞ。ぐはぁ! 店員さん、なんであなたはあんなことをあたしに
聞いたのですか? 今は、あなたの天使のような営業スマイルがとても憎い(涙)。スマイルは0円なの
は、タダより高いものはないって教訓のためなのでしょうか!?
「そ、それは……そう! 亜二樹さんって人なの! そうなの! そうなんだってんだろーがぁ!!」
 く、苦しいよ、あたし。窒息します、マジで。
「そ…そうなのか? で、でも、ちょっと食べちゃったよ」
 おい、こいつ信じてますよ? マジ、バカですか アニキは。
 でも、『食べちゃった』か。ふ~ん、ほぉ~、『食べちゃった』か。うふふ。
「ふぅ~ん。なんだ、食べちゃったの。しっかたないなぁ~。食べちゃったなら、仕方ないもんねぇ。しょう
がないなぁ。彼氏には、他のを買ってあげるから、それ、アニキにあげるよ。うん、しょうがないもんねぇ」

 うひょ~! うひょぉ~~!!
「じゃ、これもらっていいの?」
「だって、しょうがないじゃん」
「あの、その、ありがとうな。あ…う、うまかったよ、これ」
 ダ、ダメぇ~~!! うわぁ、緊急事態発生です、あたし! やばい、やばい、やばすぎです。うひゃ、
顔がニヤニヤしそうです! ダ、ダメよ、あたし。ここで負けたらいかんとです! って、頬がピクピク痙
攣してるぅ~!
「ぷぎゅるっ!!」
 通信教育で習った幻の空手技「必殺80年殺し」を顔に炸裂させて、何とか顔がにやけるのを阻止。
 ふぅ、マジでやばかったよ。何がやばかったって? と、とにかくヤバかったの!!
 しかし、その代償も大きかった。通信教育によれば、この「必殺80年殺し」を食らった相手は80年以内
に死んでしまうという超絶ヤバい技で、人道的見地から20歳未満への使用が禁じられているのだ。
 うぅぅ、なんて危険な技をあたしは使ってしまったんだろおぉ~(血涙)。
「だ、大丈夫か!?」
「らいじょうぷ。ちんぱいちないで、ぱにき」
 ああ! 豪快に後ろに倒れたあたしを助け起こすアニキの周りの空気が、輝いてみえるぅ~。手とか
足がガクガク震えるぅ~! 心臓がバクバクいってるぅ~!
 こ、これはもしや、噂に聞いた――

 パンチドランカー症状!!

 マジですか!? 医者に症状が出た心当たりを聞かれたら「日ごろからの母ちゃんとのドツキ漫才と、身
体を張ったひとり突っ込みだと思います」っていわなきゃならんじゃないですかー!

 ああ、あたしってば、なんてことに(涙)。この世界を狙える黄金の右を世間に知らせぬまま、無念を
噛み砕いた余生を送るはめになるなんて。この伝説の右足を使わぬまま、失意のうちに朽ち果てるな
んて。
 ああ、真っ白に燃え尽きたよ。アニキ、この靴下もらってくれ。あんたにもらって欲しいんだ。
「ホントに大丈夫か?」
「え!? あ、う?」
 やば。今一瞬、あたしはリングのコーナーで灰になってしまっていたよ。
 とにかくティッシュで、鼻にたまった血をズビー!とかんで、鼻の通りをよくすると、あら不思議。いつも
のスウィートボイスの復活。
「で、でも、それ義理だからね!!」
 この点はきちんとしておかなきゃいけません。ええ、いけませんとも。アニキってバカでアホで間抜け
で妄想野郎で変質者でヒッキーでヲタで。とにかくダメな人間だから、勘違いしてもらっちゃ困るわけ。
「どーせ、アニキにはチョコをくれるような女の子いないでしょ! だ、だから、そんなアニキをあわれん
で、あげるの! それに、ホ、ホワイト・デーのお返し目当てなんだからね!」
「も、もちろん、そうだよな……」
 う、何だか胸がズキッとしたぞ。あ、あたしは悪くないぞ。悪くないッたら、悪くない! だって、妹でしょ?
妹がそれ以外のどんな理由で、チョコあげるっていうのさ。
 うぅ~。でも、何だかモヤモヤするぞ。なんだってんだ、あたし。
 やっぱ、さすがに言いすぎ? いつものお礼とか何とか言ってあげた方がいいよね。うん、そうだね。
「あ、あのさ、アニキ…」

「 で も、 俺 だ っ て 今 年 は チ ョ コ を も ら っ た ん だ ぞ 」

 はぁ? アニキ、マジで言ってますか?
 あんた、見得張るのもいい加減にしておけよ、ゴルァ。だぁ~れが、あんたみたいなヲタにチョコやるよ
うな女がいる? いや、あたしと母ちゃんは別だよ、別。だってほら、家族だし、まあいろいろあるからさ。
そうでもなきゃ、チョコなんてやらないよ。やるわけないっての。やらないの! やらないって言ってん
だろ!!
 それをこぉ~んなヲタでヒッキーで彼女いない暦=年齢みたいな、どぉ~~しようもないアニキが、女
の子からチョコをもらった? ぷっ、もろ嘘ばればれ。そうまでして妹に見え張りたい? アニキ必死だ
な(w 必死すぎて、涙が出ちゃうよ、あたし。
 アニキに彼女がいたとするなら、それ右手? おい、うらやましいな。毎晩、あのエイリアンをなぐさめ
てくれるなんて、いい恋人じゃないか(プッ 頼むから、母ちゃんに「こいつと結婚するつもりなんだ」って
紹介するのだけはやめてくれ~! あたしの新しいお姉ちゃんは、アニキと一心同体ですってか? ゲ
ラゲラゲラ。あー、腹いてぇ。
 …………おい、アニキ。なんとか言えよ。って、まさかマジですか? もらったのですか? ホントで
すか? オーマイガッ!
 そ、そ、そんな! どうして、そんなことが! まさか……。

『へっへっへっ。おまえの秘密を俺は知ってるぜ』
『そ、そんな! お願いします。そのことは誰にも』
『わかってるって。――だけど、ついポロッと口にしちまうこと、ないわけじゃないよなぁ』
『ああ……! そんなぁ』
『くくくっ。まあ、あんたの出方次第だなぁ』
『どうすれば黙ってもらえるんです!? お金ですか? お願いです、いくらでも払います!』
『おっと。俺が脅迫でもしているみたいじゃないか。困るなぁ。俺は紳士的に、このネタを買い取って欲し
いと言っているだけなんだよな。取引ってヤツだよ。へっへっへ』
『わ、わかってます! ですから、いくらほしいんですか!?』

『うひひひ。わかってるじゃないか。――でもな、俺が欲しいのは金じゃないんだよな、これが』
『……! ま、まさか!?』
『そうさ! バレンタインのチョコだよ! 俺にチョコをよこすんだよ!』
『そんな! チョコだなんて! あなたは鬼よ! ケダモノよ!』
『ひゃっはっはっ! 何とでも言うんだな。さあ、俺にチョコをよこすんだ!!』

「こぉんの、ド腐れ外道の鬼畜野郎がぁ~~!!」
 あたしのギャラクティカ・マグナム一発で吹っ飛ぶアニキをダッシュで追撃。宙に浮いている間に、小
パンチから中P→大P→大Kへとつなげ、ザ・カラテマスター最終奥義「空手チョップ」を叩き込む。
「あんた、そこまで腐ってたんか!? 見損なったぞ、アニキ! 犯罪にまで、犯罪にまで手を染めるなん
て、残されたあたしら家族はどうすりゃいいってんだ! さあ、吐け! 何をネタに脅迫した!? 盗撮か?
盗聴か!? そ、それとも両方ですかー!!」
「な、な、なんのことだ?」
 胸倉つかんで首をガクガクしてやっても、まだ吐きやがらない。ふっふっふっ。アニキがそうでるなら、
こっちにも考えがある。
 ゆらりと幽鬼のごとく立ち上がったあたしは、おもむろに本棚から一冊の本を掴み取る。
「お兄ちゃん♡ むかぁ~し、よく『お医者さんゴッコ』したよねぇ。今だから言うけどさ。あたし、あれって
メチャ恥ずかしかったわけ。でも、お兄ちゃんがやりたいっていうから付き合ってあげたんだよ」
「お、おま、おま、おまえ、落ち着け! 何がどうなったかわからないが、とにかく俺が悪かったから!」
「うふ♡ でも今日は、あたしにお兄ちゃんが付き合ってもらうんだから」
 手にした本のタイトルは『家庭でできる拷問百選~誰もが素直になる秘訣を教えます~』。
「あたし、女医さん。ただし、外科専門♡」
「い、いやぁ~~~!!」
「大丈夫♡ 痛くしないからさぁ~!」

「 う っ ぎ ゃ ぁ ~~~~っ!!」

 ムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつく!
 あんのくそアニキの分際で、最後まで口を割らなかったなんて、生意気な。とっても生意気ですよ。
たとえるなら、オケラの分際で人間さまと友達になろうってぐらい生意気。あと100万年進化してから言
いやがれってもんだ。てめえの友達はアメンボ程度で十分なんだよ。
 いつもは未来から来た青狸に泣きつくヘタレ並に情けないくせに、こういうときだけは強情なヤツだ。
普段からこうなら、少しはカッコいいのにさ。って、少しだけだぞ、ほんの少しだけ!
 とにかく、アニキが3次元の女からチョコもらうこと自体がおかしいんだ。おまえはそれほど高次元の
存在かっての。アニキのような低次元な存在につりあうのは、2次元が限度。わかってますか、アニキ?
 あんたに許されたのは縦と横だけ。人間の底辺にいるあんたに高さは不要。だから、あんたは2次元
にケテーイ。これ定説。
 それなのに、3次元の女の子にチョコもらっただとッ!?
 今のあたしは、ニトログリセリンも真っ青になるぐらい爆発寸前ですよ。くそっ、スタイルがダイナマイ
ツ・バディってなら町内で凱旋パレードおっぱじめるぐらい喜んでやるが、感情がダイナマイツじゃ誰も
祝福してくれないっての。
 うがぁー! よけいにイライラしてきたぁ~!
 シャワーでも浴びて頭を冷やすか。
 返り血で汚れた服を洗濯機に投げ込み、風呂場に入ると、シャワーで冷水を頭から浴びる。ついでに
カメの子たわしで身体をごしごしこする。これ、あたしの美容の秘訣。
 だけど、それでも頭に上った血はおさまらない。

 くそっ。あたしゃ、こんなにキレやすい奴だったか、おい。カルシウムが足りなくなるとキレやすいって
いうが、あたしの場合、それないな。朝晩欠かさず、きちんと牛乳1瓶飲んでいる。もちろん、腰に手を
当て一気飲み。これ、正しい飲み方。
 これを何年も続けているのに、乳に目だった変化なし。ぢくじょー、牛乳飲むと乳が大きくなるっての
は、やっぱり迷信だったのか(血涙)。でかくなったのは、おもに身長。あっはっはっ(涙)、すでに身長
は170cmオーバー! おかげで血もつながらない自称・妹たちが、学校で増殖中ですよ。頼むから、
そんな熱い目であたしを見ないでくれ。マジ、キモイ。『あたしの初めてをもらってください』って、メモと
いっしょに変なマツタケを2本連結させたような道具を下駄箱に入れられたときは、マジで泣いたね。
 シャワーのコックをひねって水を止めると、身体に残った水が胸を…真っ直ぐ滑り落ちる。
 うがぁ~~!!! 水まであたしをバカにするのか!? えっ? そうだろ、おまえ、あたしをバカにして
いるな!? 
 そうじゃないというなら、なぜ胸を真っ直ぐ滑り落ちる!?
 それは嫌味か? あたしの胸がまな板とでも言いたいのか? そんなに起伏がないといいたいのか?
水のくせに生意気な! おまえは根性で曲がれ。重力に逆らえ。 解脱しろ! ポアしてやるぞゴルァ。
 こうまで言っても真っ直ぐ滑り落ちるというのか!? いいだろう、思い知らせてやる。タオルで排水口を
ふさいでやったぞ、ざまーみろ! ふっはっはっ、どうだ逃げられまい。おらおらっ! 水の分際で踏み
潰してやるぞ。これでもか! これでもかっ! ……ハァハァ、どうだ思い知ったか。とどめは、排水口
に流してやる。おまえなんて、クソと一緒に下水を流れちまいな! わっはっはっはっ!
 ……なんだか泣けてきたよ、母ちゃん。
 アッコは「あんなの肩こるだけだから」とか言いやがるが、あたしは肩こりたいんだよ! そりゃ、ガチ
ガチのビンビンにこりまくりたいんだよ!

 神様、あんたは不公平だ。こんなにあたしは努力しているのに、あんな女にデカチチを授けるのです
か? 父なる神はいない。そして、あたしの乳もない(涙)。
 あたしは起伏に乏しい胸に手を当てると、ムニムニと動かした。
 つかめるほどの起伏がないので、どーしても掌でこねるような動かし方しかできないけど、とにかくも
む。そりゃ、ムニムニともむ。鬼のように、もみまくる。
 って、おいこらそこ! 別にオナってるわけじゃないぞ。てめえの頭は常に桃色ハッピーパラダイスで
すか? おまえはエロエロ星雲第4惑星エロエロ星からきたエロエロ星人か? なめたこと考えてると、
ミサイルつんだジェット機をてめえの急所に突っ込ませるぞゴルァ! エイリアン、ゴー・ホーム!
 って、あたしは誰に何を言っている?
 と、とにかくだ。これは、そうした目的じゃない。なんの目的かと聞かれれば、そりゃ『乳をでかくした
い!』に決まっているだろ。
 昔、「おっぱいはもまれると大きくなる」って噂を聞いてから、そりゃ血のにじむような努力で続けてき
た日課なんです。この噂を聞いたその日は、ついついもみすぎて、翌朝内出血で乳が真っ黒になって
しまい、ショックのあまり寝込みましたよ、あたしは。内出血は1ヶ月くらいで消えて、色も元に戻ったと
きは死ぬほど安堵したよ。イヤ、マジで。ガキのくせい、黒いおっぱい。マジでヤバイよ。しゃれになっ
てません。なんとも聞くも涙、語るも涙のお話じゃありませんか。
 でも、それでもちーっとも大きくならないのは、もっと泣けるお話だけどね(涙)。

 今では、もめばデカくなるなんて噂にすぎないなんてしってますよ。じゃあ、何でまだ続けているかと
いいますと、それでも万が一億が一ってことがあるじゃないですか? もしかしたら、ちょっとは効果が
あるんじゃないかと思ったりしちゃったりするわけで、決して他のよこしまな想いがあるわけじゃないで
す。あたし、インディ○ン。イン○ィアン、嘘つかない!
 ムニムニ。ムニムニ。
 はぁ……。もんでも、もんでもデカくならないくせに、変なものだけが発達するから困ったもんだ。
「……はう♡」
 痛かったの! 痛かったの! 痛かっただけ!
「……うくっ♡」
 痛いだけです! 乳がでかくならず、感度だけ発達したなんて、おバカなことあるわけないじゃない
ですか! なぜかさっきまでなかったコリコリしたものを掌に感じるわけありませんって!
 バイーンで、ボイーンな乳のために、つらいのを我慢してやっているんだからなぁ!
 息を潜めてやっているのも乳をでかくしようとしているなんて、とっても恥ずかしいわけで、まったく
他意はナッシングなわけであります。いや、ホント。
 って、きちゃうきちゃうきちゃう~!

 ガチャ!
「――あ……」

 アニキが、きちゃいました。

 あたしは小さい頃、恐竜とかの骨が化石になるってのが不思議でならなかった。
 だって、骨ですよ、骨。あんなものがどうやったら石になるっていうんですか? 不思議で不思議で
しかたなかったので、その日おやつに出たフライドチキンの骨を庭のすみに埋めてみたけど、石にな
らなかった。あんときゃ、骨が石になるなんて嘘だぁー!って、思ったね。
 でも、今は違いますよ、あんた。
 だって、あたしもアニキも生きたまま石になってます。これなら骨が石になるなんて簡単です、マジで。
「…………」
「…………」
 あたしは、乳をもみもみしたまま硬直。
 アニキも、浴室のドアを開けたまま硬直。
 そりゃ、お互いガチガチに固まったまま、ピクリとも動きません。
 いや、ピクリ程度には動きます。えぇ~と、ピクリどころかムクムクぐらいは動いています。でも、ガチ
ガチ。ジーパンの厚い生地の下からでも自己を主張できるくらいガチガチ。うわぁ、あんなに……。
「って! おのれは、どこをガチガチにしておるかぁー!!」
 バックスウィングでアニキの鼻面に手桶をクリティカルヒット。脱衣所で、ドンガラガッシャンと盛大な
音を立てて、ひっくり返る。おー、ボーリングならストライクだな、おい。
 それでもジタバタしながら起き上がったアニキは、なんと鼻血ブーしてやがった!
 ま、ま、まさか!? アニキぃ、あんたは妹の裸を見て興奮した挙句、鼻血ブーしたのか!? あんたそれ
でもアニキか? 恥を知れ、恥を。あんたの血の色は何色だぁー!?
「ご、ごめん!」
 あ、こら待て! その顔を赤らめて逃げるのは、汚れなき美少女の役割ですよ、アニキ! 配役を奪
われたあたしはどうすりゃいいんですか? うわ、逃げ足とナニだけは速いな、アニキ。もう、ドタバタと
大きな足音を立てて2階に駆け上がってるよ。
 いつものあたしなら、逃げる猶予も与えず身柄を確保すると、生まれてきたことを後悔するくらい拷問
かけちゃるんだが、今はそれどころじゃない。

 だって、見られちゃいましたんですよ!
 もう、そりゃバッチリ。あたしは、どうすりゃいいのよ? 嫁入り前の娘の裸ですよ、あんた。しかも、タ
ダ見! うわ、ムカつく! あのアニキ、タダで見やがった。これは犯罪じゃありませんか? 嫁入り前
の乙女の入浴なんて、大金積んでも見られませんよ。それをタダでみるなんて、国家的犯罪行為で
す。いや、マジで。
 し、しかもですよ。あたしが乳もんでいるところをです!
 うわぁ、お願い神様。あたしの記憶からあの出来事を消してくれ! さもなきゃ、アニキを消してくれ!!
 これで、もんでいたのが父だったら、「お父さん、こんなに肩こって苦労かけたねぇ~」「娘、それは言
わない約束だよ」とかいう、アットホームな会話ができるってもんですが、あいにく父ではなく乳です。
 それにいくらあたしが乳もんであえいでいたからって、股間をあんなにさせるのは変態ですか、あの
アニキは。もしかして広辞苑で「アニキ」を調べると、意味が変態とでも出ているのですか? それと
も、欲情と浴場をかけた身体を張ったギャグ!? うわ、さむ! アニキ、あんた吉本で修行してこいや!
 そもそも、あたしたち兄妹ですよ。しかも、実妹。義理だからギリギリOKなんて、ギャグできません。
肉親にエッチなことを思い浮かべるだけで異常です、はい。
 でも、肉親って「肉と親しむ」って読めませんか? なんだか、とってもエッチです。
「うがぁー! あたしは何を言っているぅ!!」
 クールになれ、あたし。あたしはとってもクール・ビューティ?
「……あんた。なに、バスタブに頭をたたきつけているのさ」
「あ、母ちゃん。こ、これは……(汗)」
「いい加減にしとき。血、ドバドバ出てるよ」
「こ、これは生理なんです!」
「……この前、終わったんじゃなかったっけ?」
「生理不順で、またきたんです! そりゃ、言葉にできないみだらな生活がたたって、不順しまくりです!」
「どーせ、お兄ちゃんに裸見られて錯乱してるだけっしょが」
 す、するどい。あんたは灰色の脳細胞もってますか、母ちゃん?

「見られてもたいした裸じゃないでしょう。減るわけじゃないんだから、いい加減におし」
「へ、減るの!」
「……どーりで」
 母ちゃん。あんた、どこを見て言ってますか? その哀れみにあふれた視線はやめてくれ。そ、そん
な目で見るなぁ~!! やめてくれぇ~! この乳は減ったんじゃないんだぁー!!
「うわぁ~~ん。母ちゃんのバカァ~!」

 ピンポーン。
 アニキにあわせる顔ないし…じゃなくて、変態アニキの顔なんて見たくないので、昼飯の時間は部
屋に篭城。んで、アニキが部屋に引きこもったのを確認してから、あたしは遅い昼飯を食っていると、
玄関のチャイムがなった。
 どーせ、集金か変な宗教の勧誘でしょ。母ちゃんがドタバタ玄関に走っていったので、あたしには関
係ないこと。
 それよりか、アニキのことです。
 はぁ、見られちゃいましたよ。どうしましょ。ヤバイです。
 変態で異常者のアニキですから、もちろんあたしの痴態をリプレイしまくり。絶対に! そりゃそうで
しょ。実妹ってたって、こんな美女ですよ、あたしは。その痴態を見たんだから、あの変態の奥義を極
めたアニキのことだから、そりゃハァハァしまくって、あまつさえ夜中に個人活動する気です。キモッ!
 禁断の関係だから燃えるんだよ、とか自己弁護しまくり。言い訳しなきゃ、個人活動もできませんか、
あのアニキは。ぷっ、情けないの。だから、いつまでたっても二次元の女にしか相手してもらえないん
だよ。あんなヲタの相手をしてくれる女性は、母ちゃんかあたしぐらいなもんですって。

「お兄ちゃ~ん。お兄ちゃんに、女の子のお客さんだよー」

 ……母ちゃん。今、なんて言いました?

 あはははは。そんな、ありえなぁ~い♥
 あのアニキに、女の子のお客さんなんてありえません。ええ、ありえませんとも。だって、アニキです
よ、あのアニキ。毎日のように、あの薄暗い部屋の中にこもりっきりのヒッキー予備軍。
 そして、趣味が漫画とアニメ。もう、ヲタの典型。これがヲタの見本ですって名札をつけて国際展示場
に飾ったっていいくらいです。いや、マジで。
 しかも、最近では、エッチなゲームにハマっているようで、もう人間やめてます。本人は隠しているつ
もりなんだろうけど、あたしは知ってますよ。あんたの机の下とベッドの下、クローゼットの奥に隠して
いる変なゲームの箱を!
 この前、留守中に部屋のど真ん中に箱を積み上げてやったら、帰ってきたときのアニキの顔ったら
なかったね。うぷぷ、あたしはムンクの「叫び」をリアルで見れると思いませんでした(ゲラ
 さらに言えば、毎晩、あんあん女の子が叫ぶゲームを血走った目で見ながら、エイリアンをいじくって
いるのも知ってますよ。毎晩ですよ、毎晩。保健体育の授業によると1回で数億の精子が出るらしいけ
ど、そうするとアニキは毎晩毎晩数万数億の精子をティッシュで無駄死にさせているわけです。もう、
ホロコーストも真っ青の大虐殺! ああ、今夜もアニキはジェノサイド!
 でも、なんでそんなことを知っているかは突っ込んではいけません。って、あたしは誰に言っている?
 と、とにかく、そんなアニキのところに女の子のお客さんなんてありえませんって。
 あるとしたら、せいぜい「女の子」を数十年前に卒業したおばちゃん? それとも、変な毛皮を買わせ
ようするお姉ちゃんたちですか?
 おいおい、アニキ。うちは貧乏なんだから、毛皮なんて買わないでくれよ。その若さで頭の毛がさびし
くなっているからって言っても、毛皮なんか買っても無駄。あれは身体につけるもの。あんたに必要な
のは頭の毛。素直にアデ○ンスか増毛でもしていなさい。

 それとも、いらない下の毛でも頭に植毛しますか、アニキ? あんたが入った後の風呂に浮いている
あのちぢれた毛! あれを誰がすくっていると思ってんだ? いい加減に風呂をあがるとき、必ず毛を
すくえってあれほど言っているだろーが。今度見つけたら、問答無用であんたの頭に植毛してやるか
らな。いや、マジで。そうなりゃ、天然パーマですよ。はっ、パーマ代浮くじゃん。良かったな、アニキ(w
 そこにドタバタと階段を駆け下りる音がして、アニキの声。
 それに応えたのは――ん? なんだか、思ったより若い声だな。
 ……うぅ~む。
 まあ、暇だし、その毛皮販売員のお姉ちゃんの顔でも見に行ってやるか。あくまで暇だからです。
 丼を置いて、廊下まで匍匐全身!
 廊下の角から、ひょいと顔を覗かせ玄関の様子をうかがうと――
 ど、ど、どういうわけですか!?
 おばちゃんでも、毛皮販売員のケバイ姉ちゃんでもないぞ! 見た目ちょっと童顔っぽいが、たぶん
アニキと同年代くらい。むむむ、ボブカットで眼鏡をかけている、まあそこそこ可愛い女の子じゃん! 
大人しそーな雰囲気をしていて、図書委員でもやってそうな、いかにもな女だな、おい。
 はっ!? わ、わかったぞ。そうだ、そうに決まっている!
 アニキのところにやって来た女の子。そして、いかにもな雰囲気。これは確実だ!

 あの女は、二次元だ!!
  
 ついに漫画かアニメかエッチなゲームの神様が、あのヒッキーなアニキを哀れんで、二次元の彼女
を都合してくれたのか! そうでもなきゃ、アニキのところに女が来るわけないっての。これ定説!

 彼女との出会いはやっぱり、遅刻しそうになった朝、曲がり角で正面衝突でしたか? それとも、突
然現れた許婚ですか? おいおい、王道だな、アニキ。そんなんじゃ視聴率取れませんよ、あんた。
 あ、女が横向いた。

 ――! な、なにぃ~! 厚みがある!!

 まさか、厚みがあるなんて、あいつは「二次元」じゃないのか? まさか、伝説の「三次元人」なのです
か!? ぐはっ、信じられない? これは夢ですか? イッツ・アメリカンドリーム!?
 てっきり横からでは見えなくなると思っていたのに! なぜだ、なぜだ!? なぜあの女に厚みがある!?
まさか、本当に三次元女だというのか!?
 あ。三次元女と目が合ってしまった。
「……ど、ども」
 お互いペコリと会釈をしてから、あたしは顔を引っ込める。
 ……ふむ。
 おもむろに立ち上がると、その場でラジオ体操。おいっちにおいっちに。
 ラジオ体操第1を心ゆくまで堪能したところで、リビングに戻る。テーブルに残してあった丼をガシッと
つかむと、残っていたご飯をガバガバとかっ込む。米粒ひとつ残さず食べ終えると、自分で湯飲みにお
茶を1杯つぐ。それを飲んで、ホッと息を漏らす。ああ、幸せ。
 それから思い出したように震える右手を見つめながら、一言。

「な、なんじゃありゃぁ~~!!」

 腹を拳銃で撃たれたかと思ったくらい、驚いた。いや、マジで。
 だって、挨拶されちゃいましたよ、挨拶! アニキの大好きな漫画やアニメじゃ、あんな図書委員の
ようなキャラは内気なドジッ娘に相場が決まっています! 知らない人に会ったら、とにかく赤面! そ
して挨拶しようと頭を下げたところで、何かに思いっきり頭をぶつける! これははっきり言って義務で
す、義務!
 そ、それなのに、あの三次元女はごく普通に挨拶したんですよ! これが驚かずにいられますかって
の! そうでしょ!?
「おらぁ信じられないよ、信じられない、信じられないよ……」
 震える手で取った爪楊枝を口にくわえるけど、うまくくわえられず、そのうちポトリと落ちてしまう。
 ぐはぁ! あたしは、なにをどこかの殉職デカしているんだ、おい!
 と、とにかくだ。外見ドジッ娘のくせに、普通に挨拶できるとは、恐るべし!
 ああ、二次元から三次元という、たった一次元増えるだけで人類は、かくも高等になれるのか!?
 恐るべし三次元!!
 しかも、あの三次元とアニキはさらなる狂気をまきちらしやがった。

「母さん、ちょっと出かけてくるよ。帰りは遅くなるから」

 あ、あんたら、帰りは遅くなるって、どこに出かけて何する気ですかぁ~!!

 ちょ、ちょっと待てやー、アニキ!!
 あんたどこに行くつもりですか? そんな三次元女を連れて、どこ行く気ですか? あたしは許しま
せんよ。そんなこと許しません!
 ま、ままま、まさか! これから三次元女と歓楽街の真っ只中にあるピンクのお城にでも行こうって
んじゃないでしょーね!?
 いけません。マジでいけません! あんなお城のくせにショッキングピンクなんて、色彩感覚がまず
ダメ。その上、入場するときコソコソする連中。キモッ! あんたら、やることやるんだから、もっと堂々
としてやがれっての。お城にコソコソ潜入するなんて、あんたら忍者ですか?
 んで城の中に入ったら、いくつもの部屋のパネルの前で、アニキもその三次元女と「え~、どれにす
るぅ~?」とか脳みそが膿んでいるような会話するんだろう! し、しかも、変な木馬さんや縄とかがあ
る部屋なんて選んだりしちゃったりしてー!!
 うがぁー!! なんだか知らないけど、めたくそムカつく!!
 アニキ! あんたは、そんなにグルグル回るベッドがいいんか!? そんなにグルグル回る回転ベッ
ドがいいんか!? そんなにグルグルが好きなら、あたしが布団でグルグル巻きにしてやるよ。もちろ
ん、その後で道頓堀に叩き込んでやるけどな。
 だいたい、その、なんというか、えっと、え~なんだ、(ボソボソ)なことは、アニキには早いです。いや、
行為自体も早そうですが、そんなことをしようとすることが早いっていう意味で。うわ、花も恥らう乙女に
なに言わせんじゃー!(真っ赤)
 えっと、ですから、まだアニキには早すぎます! あんなエ、エイリアンをですね、深海の怪物と対決
させるなんて早すぎます。って、なんだかエッチというか、ゲテモノ対決だな。
 『エイリアンvs深海の怪物』!!
 エイリアンvsプレデターも真っ青のB級映画のタイトルだぞ、おい。
 白い粘液を発射するエイリアン! それを迎え撃つ、潮を吹く深海の怪物! 激しくド突きあった挙句
エイリアンの卵を植えつけられる深海の怪物。それが育って、ついにはエイリアンの子供が飛び出す
んですか!? うわ、グロ。

 しかも、それでめでたく、あたしは叔母ちゃん!?
 うがぁ~!! エイリアンの子供に「叔母ちゃん」と呼ばれるんですか、あたしは? そんなの許せま
せん! 何が許せないかって言うと、「叔母ちゃん」って呼び方。「おばちゃん」ですよ、「おばちゃん」!
 まだこぉ~んなピチピチの女の子をつかまえて、「叔母ちゃん」なんて、なんだかとっても屈辱です!
エイリアンの子供には殺してでも「お姉さん」と呼ばせます、はい。って、そういう問題でもなぁ~い!
 だいたいアニキには、れっきとした恋人がいるじゃないですか!
 そう、右手という可愛い恋人が!!
 何年も前から、毎晩あんたのエイリアンを可愛がってくれたのを忘れたのですか? 毎晩ですよ、毎
晩。あんなグロいエイリアンを毎晩可愛がってくれたのに、その恋人を見捨てるのですか? 文句ひと
つ言わないなんて、よくできた恋人じゃないですか。逆に文句いったら怖いけどな。そんな、できた恋人
いませんって。右手こそ、アニキのベスト・ラバー。これ決定!
 まあ、たまには左手も使っていたようですが……。これも浮気なのか?
 と、とにかくです! そんなに尽くしてくれた一心同体の彼女を捨てて、三次元女に走るなんて、鬼で
す、畜生です! そんな鬼畜な行為は、あんたの好きなゲームの中だけにしとけっての。
「おのれ! 天が許してもあたしが許さん!」
 三次元女としっぽりとしけこもうとするアニキを捕捉撃滅するべく玄関にダッシュ。
「こりゃ、くそアニk…ぷぎゅ!」
 玄関に飛び出そうとしたあたしの顔面をトチノキの葉のような分厚い掌が襲撃。掌打からそのまま全
体重を載せて、あたしを後頭部から床にたたきつける。ゲフッ!
「気をつけてね、お兄ちゃ~ん」
「…あ、ああ。行ってくるよ」
「ぐふふふ。ゆぅ~くり楽しんでくるんだよ」
 母ちゃんは気味の悪い含み笑いをする間も、アイアンクローであたしの頭蓋骨をギリギリ痛めつける。
って、マジでやばいって! ミシッ!って音したよ、ミシッて!
「母ちゃん、マジでやばいって。マジで今、頭蓋骨が破滅の音をあげてるよ!」

 タップアウトして、ようやく解放されたあたしは、すぐさま出かけたアニキを二次元に戻すべく追いか
けようとしたけど、母ちゃんが出口をその肥満体でふさいでいやがる。
「そこをどいてくれ、母ちゃん」
「あんた、どこに行く気だい?」
「知れたこと! アニキをシバきに行くんだよ」
 母ちゃんは、「ふっ」と鼻で笑う。
「いいかい。女が絶対に行かなくちゃいけない状況は、たったふたつ。ひとつは、自分の男のため。そし
て、もうひとつはその男とSEXしたときさ」
 くっ、むやみにキザったいぞ、母ちゃん! だいたい、行くとイクってのはギャグですか?
「ぐっふっふっ。ここを通りたければ、この母ちゃんを倒すんだね。――でも、できるかい? 町内で最
強の戦闘生物と呼ばれた、このわたしを」
 あたしは「チッチッチッ」と舌を鳴らしながら、一本立てた指を振る。
「母ちゃん戦闘力。しかし、町内では2番目だな」
「なにぃ!? では、誰が1番だというんだ?」
「フッ……」立てた親指をグイッと自分に向ける。「この、あたしさ。――母ちゃん、勝負!」
 2秒後、母ちゃんの最強が証明されました(血涙)。

「あうぅ……」
 体中がビシバシ痛い。そりゃ、SMで鞭でしばかれたように、めちゃくちゃ痛い(SMしたことないけど)。
 くそっ。あの生物は、本当に人間なのか? もはや人間の限界超えとるぞ。いや、マジで。
 気づけば外は真っ暗じゃん。あたしは、どれぐらい気絶してたんだ!? 時計を見るとびっくり。3時間
は気絶していたのか、あたし。母ちゃん、あんたの辞書には手加減って言葉はないんですか?
 ううう、今日も我が家最強の地位は奪えなかったか……。今日こそはイケると思ったんだけどなぁ。
 でも、何であたしは母ちゃんとバトルしたんだっけ。
「――! そうだ、アニキ!!」

 ガバッと立ち上がるけど、足腰が立たないわ。ダメだ、こりゃ。いいのを食らって、まだ脚にきてやがる。
「あら、ようやくお目覚めかい?」
「――!」
 のんびりコタツでセンベエかじりながらテレビを見ている母ちゃんと目が合った。こっちは思わずファイ
ティング・ポーズを取ったというのに、母ちゃんはまったく変化なし。ううう、屈辱です(涙)。
「あ……アニキはどうした?」
 バリンッとせんべいを噛み砕くのと一緒に苦虫でも噛み潰したのか、すごい渋い顔をする母ちゃん。
「あのへたれ息子なら、とっくに帰ってるよ」
「帰ってる!?」
「まったく、どーしようもないねぇ。せっかく母ちゃんが、財布に1万円とコンドームを入れておいてやった
のに。ああ、せっかく赤飯の用意をしたのが無駄になっちまったじゃないか……」
 んなことを母ちゃんが言っていたけど、そんなの無視して、2階に駆け上がる、あたし。
 おのれ、くそアニキめ!
 こぉんな可愛い妹を心配させておきながら、とっくに帰ってる? 舐めてますか、あんた。あたしを舐
めまくっているんじゃないかと問い詰めたい。マジで問い詰めたい。あんたは、あの三次元女の乳で
も舐めてろっての!
 ……むっ。なんだか、それもムカつく。マジで、ムカつく。
 だいたい3時間で帰ってきたのが怪しいです。うちから繁華街まで片道30分。往復で1時間。つまり
繁華街で2時間つぶしたことに。
 さてはアニキ、ご休憩かぁ!?
 ところで、ベッドの上で激しく運動するのに、ご休憩とは不思議です。逆に疲れてしまいます。その上、
女の方は突かれてしまいます。でも、休憩になんないじゃんって突っ込みはしちゃダメですか?
「ゴルァ! このくそアニキ!!」
 ドアを蹴破り、アニキを締め上げようとした、あたし。
 でも、今まで見たこともないアニキのうれしそうな顔に、続く言葉を失った。

 あたしは何をしてるんだ?
 目の前では、うれしそうにアニキが今日のデートのことを話している。
 だけど、あたしには今のアニキはどこか非現実めいた存在。まるで映画の中の登場人物でも見てい
るような、そんな感じ。
 昨日、チョコと一緒に告白されたこと。そのとき思い切って彼女を映画に誘ったこと。それを受けても
らったこと。今日一緒に見た映画のこと。前から気にかけていたこと。そして、今日は自分からも告白
したこと。
 アニキの口から漏れるひとつひとつの言葉が、あたしの胸に降り積もる。それは雪のように冷たく、
鉛のように重い。
 うれしそうに彼女のことをアニキが話すのを聞くあたしも、映画の中の人。アニキがする彼女の自慢
話に相槌をうち、笑って応える、もうひとりのあたし。
 そして、本当のあたしは、それを眺める観客。
 何だか、とても嫌だ。
 泣きたいくらい、とても嫌だ。
 でも、観客がどうしたって、映画は止まらない。映画の中のもうひとりのあたしは、あたしを無視して、
あたしの知らないあたしを演じ続ける。
 永遠に続くかと思っていたアニキの自慢話も、ようやくネタ切れになってきたところを見計らい、あたし
は部屋を出ようとした。
 何だか、とっても息苦しい。この部屋にこれ以上一瞬たりともいたくない。苦しい、苦しい、苦しい。
 立ち上がったとき、視界のはじっこに映ったピンク色の箱に目が止まる。それを目ざとく見つけたアニ
キがうれしそうに言う。
「あ、これ。昨日もらった、チョコなんだ」
 うるさい、だまれ。それ以上、言うな。
「へぇ~。うわっ、これ手作りじゃない? けっこう凝ってるね」
「だろ?」

 アニキの微笑みは、あたしを素通りして、ここにはいない誰かに向けられている。
 ヘラヘラ笑うな。気持ちが悪い。気持ちが悪い。
「おいしそうじゃん」
「ああ。おまえもひとつ食べる?」
 次の瞬間、あたしはアニキの頭を思いっきり殴っていた。
「アニキはバカか!? あんた、女の子のチョコを何だと思ってる? いいか、それは女の子の想いが
つまってんだぞ! それを軽々しく他の奴に食わせるったぁ、どういう了見だ!?」
 この馬鹿アニキが。なぜ、あたしがこんなことを説教しなきゃいけないんだ?
「いいか! その女の子のことを真面目に想っているなら、全部自分だけで食え。それが礼儀だ!」
 あはっ。馬鹿なのは、あたし?
「わ、わかったよ。俺が全部食べるって」
「よろしい。でもちょっと食べたかったな。――そうだ!」
 そして、あたしは馬鹿で意地悪な賭けをする。
「ほら、あたしがあげたチョコをちょうだい。あれって高かったんだよねぇ~。アハハ。だから、どんな味
か気になるしさ」
「なんだよ。全部食べるのが礼儀って言ってたくせに」
「そりゃ、その。ほら、あたしは妹じゃん。だから無問題」
 そう、あたしは妹だから。妹なんだから。
「ふ~ん……」
 ちょっと考え込むアニキ。
 あたしは、祈る。
 何に祈るのかはわからない。
 そして、何を祈るのかもわからない。
 だけど、ただ祈る。何かを祈る。
「それもそうか」

 アニキが差し出した見覚えのあるチョコの箱。
 あはっ。やっぱりね……。
 あたしは笑顔でチョコをひとつつまむと、口に放り込んだ。
「……? どうした? 変な顔をして」
「ん? ――ああ。このチョコ。ちょっと苦味が強くない?」
「そうかなぁ? それほどでもないと思うけど?」
「やっぱり、高かっただけに大人の味? って奴かな。とにかく、ごちでした」
 アニキの部屋から出かかったところで振り返る。
「あ、そうだ」
 あたしはニッコリと笑う。
 たぶん、あたしにできる最高の笑顔。
「せっかくできた彼女なんだから、大切にしろよぉ~。何しろ、ア…兄さんを好きになる物好きな女の子
なんて、もう二度と出てこないだろうからねぇ~」
 照れるアニキの隙をついて、チョコをもうひとつ奪い取る。
「もう一個もらい~♪」
「あ! おまえっ!」
 兄さんが怒ったふりをして手を上げたのに、あたしは笑いながら頭をかかえて自分の部屋に逃げ込
んだ。
「あはははっ。あはっ…はは……はは…は……」
 ドアにもたれかかったまま、その場に座り込む。しだいにあたしの口から漏れるのは、笑い声になら
ない引きつった吐息だけになる。
 それすらも出せなくなったあたしは、兄さんから奪ったあたしのチョコを口に放り込んだ。
 噛み砕くとナッツのサクッとした感触とともに、口いっぱいに広がる甘いチョコの味。
「……にがぁ」
 アニキにあげた最後のチョコは、とっても苦かった。
                            

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