生意気な妹に愛の告白して、騙してやろうとした兄【エイプリールフール】

自分の部屋で、まったりくつろいでいると

「お兄ちゃん、絢香だけど」

と妹がドアの向こうから声をかけてくる

「どうした?」

と言うと、妹は
恐る恐るといった感じで部屋の扉が開き
不安そうな顔をした妹が部屋に入ってきた

まあ無理も無い。

俺がいつになく真面目な顔付きで

「あとで部屋まで来てくれないか」

などと言ったものだから、困惑しているのだろう。

ちらりと壁に掛かった時計を見やる。

時報にちゃんと合わせていれば、
あと10分で今日も終わってしまうらしい。

これは急がなければならない。

今日中に、これを済ませないといけないのだ。

「で、どうしたの?」

絢香がいつになく、か細い声で言った。

「エイプリルフールの罠」

今日がエイプリルフールだと気がついたのは、
会社から帰ってテレビを見ていた時だった。

あんまりたいしたイベントではないが、
毎年この日を過ぎてから

「ああ、誰かだましときゃよかったな」
なんて思ってしまうのは俺が貧乏性なだけなのだろうか?

よし、今年こそ誰かに嘘ついてやれ

そう思いついたものの、
時刻はもう夜の10時を過ぎている。

友達にメールで大嘘でもついてやろうか。

でもこんな時間じゃ、
返事が返ってくるのは明日になるかもしれない。

身内はというと、親はとっくに夢の中だ

ふと隣を見ると、
雑誌を読むのに夢中になっている妹が居る。

いつも生意気で、
我侭ばっかり言って俺を振り回す自由気ままなJKな妹

何かあるたびに俺にちょっかい出してくる、
まるで小姑のような妹だ。

そうか、こいつを騙してやれ

今日くらいはギャフンと言わせて、
日ごろ鬱憤を晴らしたい。

では、どんな嘘がいいか。

そう思案しながらチャンネルを変えていると、
いかにも安っぽいドラマが目に止まった。

「おれ…おまえのことが」

「だめよ、わたしたち、兄妹なのよ」

こんな近親素管の設定が
今の若い奴に受けているのかどうか、
甚だ疑問ではあったが、今の俺には格好のネタだった

そうか、妹に近親相姦系の嘘をついてみるか

そういうわけで、俺は、
わざわざ自分の部屋に妹を呼び出したのだった。

さも何かあるように思わせて。

「居間で話せばよかったのに」

妹は落ち着かないのか、
俺の部屋をきょろきょろと見回しながら言った。

「いや、この部屋じゃないとちょっとな
親に聞かれるとマズイし」

「そう、なんだ」

いつもは生意気な喋り方だが、
俺の堅苦しい雰囲気に押されたのか、
やけに弱弱しい返事だった。俺の演技もなかなかのもんだ。

「まあ、ちょっと座れよ」

「うん」

女子校生の妹は俺に促されるまま、
ベットに座っている俺の横に腰掛けた。

二人分の重さに、ベットがギシリと音を立てる。

「で、まあ、ちょっとした
くだらない…いや、くだらなくないな
真面目な話があるんだ」

そういってわざと視線を逸らす俺。

そうでないと、さっきから堪えている
笑いが顔に出てしまいそうだったからだ。

「うん、それで?」

「こんなこと、言うのはおかしいと思う
だけど、もう我慢できないんだ」

妹は黙って俺を見つめていた

そのまじめな顔つきに、少しだけ罪悪感が沸く

だけどここまできて止める訳にはいかない

「驚かないで聞いてくれよ。俺な
ずっと前から」

「……」

「お前のことが好きだったんだ」

いつもの絢香なら、

「何冗談言ってんのよ」

と言うに違いない

だが俺は、それでも真面目な顔で突き通す

するとさすがの絢香も信じ込み始めるだろう

そこですかさず

「今日はエイプリルフールだよ。ゲラゲラ」

と言い返してやるのだ。

「ば、ばかじゃないの?」

「でもお前、ちょっと信じきってなかった?」

「するわけないでしょ!バカ!」

なんて反応を期待していた。

しかし、我ながらなんて餓鬼っぽい嘘だなんだろう…。

ところが肝心の絢香はというと。

なぜか大きな瞳をよりいっそう大きく開き、
え、と小さく声を洩らすだけだった。

おかしいな

予想していたのと違う反応だった。

戸惑いながらも、
頭の台本に書いていた台詞を口に出す。

「実の妹にこんな子というなんておかしいと思う。
けど 本気なんだ
絢香のことを愛してしまったんだ」

これでどうだ。

なのに絢香はその言葉を聞くと、
何故か顔を伏せてしまった

綺麗に整った前髪が表情を隠し、
どんな反応を見せているのか分からない。

それでもただ一つ言える事は、
いつもの妹とは明らかに態度が違うということだ。

な、なんか言ってくれよ
調子狂うぜ

やたらと自分の鼓動がうるさい。

いつもは気にならない時計の秒針が、やけに耳に付いた。

なんでこんなに緊張してんだろ、俺…

「あのね…」

どれくらい経っただろう。

妹の唇がようやく開いた。

黙っていたせいか、すこし声が枯れている。

「どうしようか
私もずっと迷ってたの」

なんのことだろう

「でも、お兄ちゃんがそう言ってくれるなら
私も」

え?

自分から切り出したことなのに、
さっぱりこの展開が掴めない。

俯いていた顔をあげた妹が、俺の目をまっすぐ見ながら言った。

「おにいちゃん、
私もずっと…好きだったよ」

じょっ冗談だろ?

何がなんだか分からなくなっていた。

「うそだろ?」

思わず口に出していた俺だが、
妹の顔を見るととても冗談とは思えなかった。

絢香の頬はまるで赤ん坊のように真っ赤で。

瞳が涙を湛えたように潤んでいて。

日常では見せたこと無いその切なそうな表情に俺は……

少しだけクラッときた。

「嘘なんかじゃないよ」

「や、ほら、今日はあれだぞ、
4月バカ、エイプリルフールだ。それだろ?」

「違うよ 本当だよ
じゃあお兄ちゃんは嘘だったの?」

「っえ や その」

妹は突然俺の近くに座りなおすと、
俺の肩にコツンと頭を乗せた。

な…なんなんだよこの展開は

「本当だよね?
おにちゃんもずっと想っててくれたんだよね」

俺の腕に、妹の細い腕が絡まる。

何気なく妹の小さなふくらみが、
服越しに二の腕に当たっているのに、俺は抵抗すら出来なかった。

「いつも我侭とか言ってるけど
本当はね、お兄ちゃんに構って欲しいからだったんだ」

「えっ」

「ごめんね」

「あ、いや
いいんだ うん」

なにリアル妹に甘えられて
動揺してるんだよ俺

嘘だって言ってしまえばいいじゃないか。

でも、肩に掛かる絢香のさらりとした髪の感触が

じんわりと伝わる妹の温かさが

なんというか…これも悪くないな、と思った

「おにいちゃん」

妹がそっと顔を上げた。

顔がいままでになく近い。

いつになく、幸せそうな表情の絢香。

頬はもう真っ赤に染まっていていてそれで

抱きしめたい。そんな衝動に駆られる表情だった。

あまりに俺たちは近すぎて。

触れるとはじけそうな唇が、
呼吸をするたびにゆっくり蠢いているのも分かるくらいだ。

「…」

俺の視線を感じたのか、
妹は俺の瞳をじっと見つめたあと、そっと瞼を閉じた

長いまつげがふるふると震えていた。

あっ絢香

冗談だったはずが
こんな事になってしまうなんて。

自然と俺は、唇を近づけていた。

なにやってんだよ
冗談だったんじゃないのか?

気持ちはそう思っているのに…唇が勝手に

あと少しで妹と

と思った途端

「って、嘘付くなら
ここまでやらなきゃダメだよ?」

妹が俺の口付けをするりとかわし、
急にベットから立ち上がった。

「んぐっ んあ?」

おかげで俺はそのままベットに
頭から突っ込む形となった。

妹は仁王立ちで俺を見下ろし、
口元はニヤリと吊り上げている。

「おにいちゃん、嘘、下手すぎ」

「ああ?」

「会社から帰ったときは普通だったのに、
テレビでエイプリルフールの番組見てから様子がおかしくなってたよね
それでピンときたの。
お兄ちゃん絶対何かたくらんでるなって」

「ちょっとまて、おまえ、それを分かってて?」

「そう、こっちも調子合わせてただけ。
でもまあ、お兄ちゃんもなかなかの演技力だったよ。
『絢香のことを愛してしまったんだ』
ふふふっ……あははっ……お兄ちゃん最高!」

絢香は肩を震わせるくらいに思いっきり笑っている。

騙すつもりが思いっきり逆に騙された。

つまりはそういうことらしい。

バカみてえじゃん俺

じゃあさっきの女っぽい表情も嘘だということなんだろうか

女っておっそろしい

俺はどうもそれに気が付くのが遅かったようだった。

「うふふ
でもお兄ちゃんって分かりやすいよねー」

「なにが?」

「だってお兄ちゃん、嘘つくときね、絶対私の目見ないもん」

「はぁ」

もうため息しか出ない。

まあこんな俺だから、いつも振り回されちゃうんだろうな。

自分の間抜けさにさすがに呆れた。

「でもね
おにいちゃん」

「なんだよ」

絢香は笑顔のままだったが、
どこか真剣なまなざしで俺を見つめていた。

「でも、私のは本当だよ」

「ん?」

「お兄ちゃんのこと
好きだから」

またあの表情だ。

すこし恥ずかしそうな、女っぽい顔つき。

思わず信じてしまいそうだが、
何度も引っかかるほど俺もバカじゃあない。

二度目のハプニングはないのだ!

「はいはい、
もうわかったよ。エイプリルフールはもう終わり」

「終わったから言ってるの
ほんとだよ?」

「絢香、しつこいぞ」

「もう、ほんと、鈍感なんだから!」

「何怒ってんだよ」

「もう 知らない!」

絢香は何故か眉を吊り上げて部屋のドアに向かった。

なんで俺は怒られてるんだろう。騙されたのは俺のほうなのに。

扉を閉める前に絢香はちらりと壁を見やり、
そして俺をじっと見つめる。

「いーーーだ」

バタンッ!!

歯をむき出しにして思いっきりドアを閉めやがった。

(子供かあいつは)

ふと気になって、絢香が見ていた壁を見る。

「あ」

そこには時計が掛けてあった。

0時10分。
本当に、もう、エイプリルフールは終わっていた。

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